経験と勘を「見える化」するスマート農業の最前線
- Tomoyuki Watanabe
- 9月12日
- 読了時間: 3分

――岡山の白桃から稲作まで広がるDXの実装
■ はじめに
農業の現場では、長年にわたり「経験と勘」が収穫や栽培管理の成否を分けてきました。しかし、担い手不足・高齢化が進む中、その知見を次世代に引き継ぐのは容易ではありません。そこで注目されているのが、ICTやロボットを活用して“暗黙知”を“形式知”に変換するスマート農業技術です。
9月11日に報道された岡山県の事例は、白桃の収穫支援と稲作の収量管理に焦点を当てたものでした。ここから、農業DXの実装がどのように進んでいるかを専門家の視点で解説します。 岡山:経験と勘補う スマート農業:地域ニュース : 読売新聞
■ 白桃収穫を革新する「指先センサー×スマートグラス」
岡山県農業研究所と広島大が開発した技術は、紙袋に覆われた白桃の熟度を「指先センサー」で判定し、結果をスマートグラスに表示するものです。
従来は袋を開けて目視で色を確認 → 適期でなければ再び袋をかけ直す、という非効率な作業が必要でした。今回の技術では、袋の上から瞬時に熟度を把握でき、収穫ロスが15% → 4%へ削減、作業時間も25%短縮と実証されています。
さらに、スマートグラスによる可視化やクラウドでのデータ共有により、複数人が同時に効率的な収穫作業を行える点は、労働力不足の解決にも直結します。
コメントこの技術は「熟練農家の目利き」をデジタル化したものです。AIやセンシングが人間の感覚を補完することで、経験が浅い新規就農者でも高品質な農産物を安定的に収穫できる仕組みとなります。
■ 稲作を変える「収量計測コンバイン」
一方で、稲作の分野では「収量計測機能付きコンバイン」の導入が進んでいます。収穫時に水分量や区画ごとの収量を自動測定し、そのデータをもとに翌年の肥培管理を最適化できる仕組みです。
岡山市北区で約36ヘクタールを営む定広氏は、この機能を用いて「少人数で広大な農地を管理できる」環境を整えつつあります。データで示されるため、経験が浅い担い手でも判断が容易になり、結果として農業への参入障壁が下がるのです。
コメント稲作は「区画ごとのばらつき」が収量や品質に直結します。データに基づく管理が進めば、「勘と経験」だけに頼らず、EBPM(エビデンスに基づく営農管理)が浸透していくでしょう。
■ 制度との接続:「スマート農業技術活用促進法」
2024年10月に施行された「スマート農業技術活用促進法」は、農業の労働生産性向上を目的とした制度で、技術導入を後押しする仕組みが整備されています。
この法律に基づく「生産方式革新実施計画」に認定されると、補助金や税制優遇などの支援を受けられます。今回紹介された白桃や稲作の事例も、まさに同法の理念に沿った取り組みといえます。
■ 今後の展望
今回の技術導入が示すのは、単なる効率化ではありません。
熟練農家の知見を形式知化し、データとして蓄積
経験が浅い担い手でも即戦力化できる環境を整備
農業の「属人的な技術」を「共有可能な資産」へ転換
これにより、農業の魅力は「勘に頼る伝統的産業」から「データとテクノロジーで稼げる先端産業」へと進化していくでしょう。
■ まとめ
岡山の白桃収穫支援技術と稲作の収量計測コンバインは、まさに「経験と勘を補うスマート農業」の象徴です。これらの技術が普及すれば、農業の持続可能性は格段に高まり、就農希望者の増加にもつながります。
スマート農業は単なる道具の導入ではなく、「農業の在り方」そのものを変革する動きです。今後も地域ごとの作物や課題に合わせて、こうした技術が全国へ展開していくことを期待しています。







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