令和7年度から本格始動 ― 「中山間地域等直接支払制度」に見るスマート農業導入の新潮流― テクノロジーで“守る農業”から、“挑む農業”へ ―
- Tomoyuki Watanabe
- 10月19日
- 読了時間: 4分

■ はじめに
日本の農業の原風景ともいえる中山間地域の棚田や傾斜地。これらを維持するための「中山間地域等直接支払制度」が、令和7年度(2025年度)から第6期対策として大きく刷新されました。
単なる「農地維持の補助金」から、地域経営・スマート農業を軸にした未来型支援制度へ──。本記事では、その全貌と現場へのインパクトを、制度設計と技術導入の両面から専門的に解説します。
■ 制度の目的 ― 「守る」から「稼ぐ」へと変わる文脈
中山間地域は、地形的な制約により大規模化が難しく、生産コストが高い地域です。国はこの「不利を補正」し、農地8.4万ヘクタール(東京ドーム約1.8万個分)の減少防止を5年間の目標に掲げています。
従来は「農地を守る活動」に対して交付する仕組みでしたが、今回の第6期では、地域間連携(ネットワーク化)とスマート農業技術の導入という「攻めの2本柱」が加わりました。
■ 新設された2つの加算措置のポイント
① ネットワーク化加算
複数の集落が連携・統合して営農体制を強化する取組を支援
10aあたり最大1万円(上限100万円/年)
人材確保・高収益作物の導入・加工販売体制づくりなども対象
KPI(作付面積・販売額・ボランティア数など)の設定が必須
👉 地域を単位とした「チーム経営」への転換を促す狙いがあります。
② スマート農業加算
10aあたり5,000円(上限200万円/年)
ドローン、リモコン草刈機、水管理システム、自動操舵トラクター、鳥獣対策センサーなど幅広く対象
導入費だけでなく、研修・免許取得・メンテナンス・外部委託費も支援対象
集落単位での共同利用が原則(個人所有不可)
👉 単なる“機械導入支援”ではなく、地域の省力化・効率化を目的とした“共同投資”制度です。
■ 現場実務の留意点
1. 協定締結と認定プロセス
集落単位で「5年間の活動計画」を作成
市町村が認定し、国・県・市町村が費用を分担(国1/2・県1/4・市町村1/4)
通常は6月末締切だが、令和7年度は特例で10月末まで延長可能
この延長措置は、「新技術の理解と合意形成には時間がかかる」という国の柔軟な配慮の現れです。
2. 導入機器の選定と市町村の役割
国はリスト提供(例:ラジコン草刈機、小松商事・ヤンマー・ORECなど20社以上)
ただし、効果を国が保証するものではない。
市町村が「スマート農業加算の趣旨に合っているか」を確認・指導する必要あり。
👉 「見た目がハイテク」よりも、「地域課題をどう解決するか」が評価の軸です。
■ 政策の本質:スマート農業×地域経営の融合
この第6期制度の根底には、単なる支援金から、地域経営の再設計へという構想があります。言い換えれば「スマート農業を使うこと」ではなく、「地域をどう持続可能にするかを考えるプロセス」そのものが支援対象となったのです。
スマート農業は「テクノロジー導入」ではなく「共同化の仕組み化」
ネットワーク化は「人と人をつなぐDX」
制度は「補助金」ではなく「未来への契約」
と整理すると、制度設計の意図が明確に見えてきます。
■ 5年間の“先行投資期間”をどう活かすか
加算措置は最大5年間適用可能で、使途を明確にすれば翌年度への繰越も可能です。つまり、令和7年度から着手すれば、制度期間をフルに活用できます。
「初年度に動くかどうか」が、その地域のDX進度を左右する――これは農業政策では珍しく“スピード勝負”のフェーズです。
■ 専門家としての視点 ― 現場への3つの提言
1️⃣ 「ドローンを買う」ではなく「作業を再設計する」 どの作業を、どれだけ減らすかを“数値化”して効果を明確に。
2️⃣ 「個人」より「集落単位の生産性向上」 加算制度は共同利用を前提。コミュニティマネジメントが鍵になります。
3️⃣ 「制度を活用するだけ」ではなく「地域DX戦略の一部に組み込む」 スマート農業加算を、地域のデータ基盤・担い手育成・販路開拓と連動させることで真価を発揮します。
■ おわりに ― テクノロジーで守る、日本の棚田
令和7年度からの新制度は、「守る農業」から「挑む農業」への転換点と言えます。
ドローンやロボットが耕す未来は、単なる効率化ではなく、“次世代がこの地で農業を続けられる希望の装置”です。
中山間地域の課題は、技術ではなく仕組みで解決する。そして、その仕組みを動かすのは人と地域の力です。
🛰️ 参考リンク







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