なぜ7割の農家がスマート農業に動けないのか?―猛暑・人手不足・情報格差のリアル
- Tomoyuki Watanabe
- 3 日前
- 読了時間: 3分

こんにちは。スマート農業を専門に全国の現場と向き合っている渡邊智之です。
2025年の夏、日本の農業は再び極限状態に置かれています。炎天下での作業に加え、高温障害、収量減、品質低下、獣害など、「農業経営の不確実性」が極限まで高まる中、注目されるのが「スマート農業」です。
しかし、農家の7割が導入に踏み切れていない――これは一体なぜなのでしょうか?
■ 農家が置かれている“猛暑と労働力の壁”
Forbes JAPANに掲載された調査によると、回答者の8割以上が「今年は例年以上に暑い」と体感。気象変動が現場を直撃しており、以下のような複合的な被害が同時進行しています。
高温障害(品質劣化・結実不良など)
病害虫の増加
収量の減少
土壌乾燥や野生動物による食害
このような気象リスクに加えて、人手不足という構造的課題が農業経営をさらに圧迫しています。農機具王の調査では、「人手が足りない」とする農家は約5割に上りました。
高齢化・賃金問題・雇用確保の難しさにより、そもそも「人を雇う」ことが選択肢にない農家も多く、農業の労働力構造そのものが限界に近づいているのが実情です。
■ スマート農業=“救世主”になりうるか?
こうした中、注目されるのがスマート農業技術。あるスタートアップが開発したスマート水管理システムでは、稲作の作業時間を6%にまで短縮できたという事例もあります。
しかし、現場での導入率は依然として低く、検討・導入している農家は3割未満。導入が進まない背景には、次のような要因があります。
導入を阻む「4つの壁」
コスト面の不安
初期投資に対する回収の見通しが不透明
燃油・肥料高騰で機械更新さえ難しい農家も多数
効果への疑念
「使いこなせるのか」「収量や品質に本当に差が出るのか」といった疑問
情報格差
補助金や支援制度の情報が農家に届いていない
地域に導入事例がなく、参考にできる身近なモデルが存在しない
技術理解の不足
「そもそもスマート農業の中身がわからない」という声が多い
■ 「本当の課題」は“技術”ではない
この調査結果から、私は次のような本質的課題を感じています。
問題は技術の優劣ではなく、“届け方”にある。
スマート農業技術は既に一定の完成度を持っており、特にセンサーや自動化システムは日進月歩で進化しています。しかし、多くの農家にとっては「遠い世界の話」に見えているのです。
スマート農業は「導入して終わり」ではなく、導入後の運用・支援・学びの場づくり(=エコシステム化)がなければ定着しません。
■ 今求められるアクション:地域に“つなぎ役”を
スマート農業を本格的に普及させるには、以下のような支援体制が不可欠です。
地域の営農指導員や普及センターと連携した技術の橋渡し
ICTに強い若手農業者を起点としたピア学習(仲間から学ぶ)
成功事例の可視化(コスト削減、負担軽減の「見える化」)
導入コストに対する中長期的な費用対効果の提示
スマート農業×補助金のワンストップ支援窓口の設置
■ 「今、動かなければ」未来はない
記事の最後にもあるように、農業現場では「待ったなし」の状態が続いています。だからこそ今、“スマート農業の民主化”が必要です。
技術を現場の言葉で伝え、信頼できる担い手が導入と定着を支える。そうした「仕組みづくり」こそが、今最も求められています。
※本記事はForbes JAPAN「猛暑に挑む農家の現実」記事をベースに専門家視点で再構成しています。元記事はこちら:https://forbesjapan.com/articles/detail/80753
Comments