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なぜ7割の農家がスマート農業に動けないのか?―猛暑・人手不足・情報格差のリアル

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こんにちは。スマート農業を専門に全国の現場と向き合っている渡邊智之です。

2025年の夏、日本の農業は再び極限状態に置かれています。炎天下での作業に加え、高温障害、収量減、品質低下、獣害など、「農業経営の不確実性」が極限まで高まる中、注目されるのが「スマート農業」です。

しかし、農家の7割が導入に踏み切れていない――これは一体なぜなのでしょうか?


■ 農家が置かれている“猛暑と労働力の壁”

Forbes JAPANに掲載された調査によると、回答者の8割以上が「今年は例年以上に暑い」と体感。気象変動が現場を直撃しており、以下のような複合的な被害が同時進行しています。

  • 高温障害(品質劣化・結実不良など)

  • 病害虫の増加

  • 収量の減少

  • 土壌乾燥や野生動物による食害

このような気象リスクに加えて、人手不足という構造的課題が農業経営をさらに圧迫しています。農機具王の調査では、「人手が足りない」とする農家は約5割に上りました。

高齢化・賃金問題・雇用確保の難しさにより、そもそも「人を雇う」ことが選択肢にない農家も多く、農業の労働力構造そのものが限界に近づいているのが実情です。


■ スマート農業=“救世主”になりうるか?

こうした中、注目されるのがスマート農業技術。あるスタートアップが開発したスマート水管理システムでは、稲作の作業時間を6%にまで短縮できたという事例もあります。

しかし、現場での導入率は依然として低く、検討・導入している農家は3割未満。導入が進まない背景には、次のような要因があります。

導入を阻む「4つの壁」

  1. コスト面の不安

    • 初期投資に対する回収の見通しが不透明

    • 燃油・肥料高騰で機械更新さえ難しい農家も多数

  2. 効果への疑念

    • 「使いこなせるのか」「収量や品質に本当に差が出るのか」といった疑問

  3. 情報格差

    • 補助金や支援制度の情報が農家に届いていない

    • 地域に導入事例がなく、参考にできる身近なモデルが存在しない

  4. 技術理解の不足

    • 「そもそもスマート農業の中身がわからない」という声が多い


■ 「本当の課題」は“技術”ではない

この調査結果から、私は次のような本質的課題を感じています。

問題は技術の優劣ではなく、“届け方”にある。

スマート農業技術は既に一定の完成度を持っており、特にセンサーや自動化システムは日進月歩で進化しています。しかし、多くの農家にとっては「遠い世界の話」に見えているのです。

スマート農業は「導入して終わり」ではなく、導入後の運用・支援・学びの場づくり(=エコシステム化)がなければ定着しません。


■ 今求められるアクション:地域に“つなぎ役”を

スマート農業を本格的に普及させるには、以下のような支援体制が不可欠です。

  • 地域の営農指導員や普及センターと連携した技術の橋渡し

  • ICTに強い若手農業者を起点としたピア学習(仲間から学ぶ)

  • 成功事例の可視化(コスト削減、負担軽減の「見える化」)

  • 導入コストに対する中長期的な費用対効果の提示

  • スマート農業×補助金のワンストップ支援窓口の設置


■ 「今、動かなければ」未来はない

記事の最後にもあるように、農業現場では「待ったなし」の状態が続いています。だからこそ今、“スマート農業の民主化”が必要です。

技術を現場の言葉で伝え、信頼できる担い手が導入と定着を支える。そうした「仕組みづくり」こそが、今最も求められています。


※本記事はForbes JAPAN「猛暑に挑む農家の現実」記事をベースに専門家視点で再構成しています。元記事はこちら:https://forbesjapan.com/articles/detail/80753


 
 
 

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