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農家の4割がデータ活用。でも「分析」は約3%―2025年農林業センサスで見るスマート農業の現在地


「スマート農業は、日本でどのくらい普及したのでしょうか。」

これまで、この問いに答えようとすると、ロボットトラクターや農業用ドローン、センサー、営農管理システムなどの導入台数が取り上げられることが少なくありませんでした。

しかし私は以前から、スマート農業の普及を「機械やシステムを何台導入したか」だけで評価することには限界があると考えています。

重要なのは、その技術やデータが実際の農業経営の中で、


見る→記録する→分析する→判断する→行動を変える


ところまでつながっているかです。

2026年8月7日、農林水産省から「2025年農林業センサス 第2総括編(農林業経営体調査)」が公表されました。

この中には、「データを活用した農業を行っている経営体数」という非常に興味深い統計があります。第2総括編では、この統計表が「47 データを活用した農業を行っている経営体数」として公表されています。

今回は、この最新統計から、日本のスマート農業・農業DXがどこまで進んでいるのかを考えてみたいと思います。


2025年、農業経営体の約4割が「データを活用」

まず大きな数字から見てみます。

2025年農林業センサスでは、農業経営体のうち、何らかの形でデータを活用した農業を行っている割合は約4割となっています。

農林水産省が先に公表した確定値の概要でも、「データを活用した農業を行っている農業経営体」は約33万経営体、農業経営体に占める割合は40.0%とされています。

数字だけを見ると、

「日本の農業者の4割がデータ農業をしている」

あるいは、

「スマート農業はかなり普及した」

と受け取るかもしれません。

しかし、ここで少し立ち止まって「データを活用している」とは具体的に何を意味するのかを見る必要があります。


「データ活用」の中身を見ると、状況が変わって見える

2025年農林業センサスでは、効率的・効果的な農業経営を行うためのデータ活用について、具体的な方法を尋ねています。

調査票では、例えば次のような行動が対象になっています。

  • 気象や市況などのデータを見る

  • 農作業履歴などをパソコンやスマートフォン等で記録する

  • 機器やセンサーなどを用いて生育状況等を計測・取得・分析する

  • データ分析を利用した営農上のサービスやサポートを活用する

しかも2025年調査は、「該当するものすべて」に回答する複数回答方式です。

ここがとても重要です。

例えば「気象・市況等のデータを見る」には、スマートフォンやパソコンだけではなく、新聞などで情報を確認して農業経営の参考にする場合も含まれます。

したがって、


「データ活用率約40%」=「高度なスマート農業を実践している農業者が40%」


という意味ではありません。


「見る」は約36%、「記録」は約12%、「分析」は約3%

第2総括編の全国値を整理すると、データ活用にはかなり大きな段差があります。

概ね、

データ活用の内容

農業経営体に占める割合

何らかのデータを活用

約40%

気象・市況等のデータを見る

約36%

農作業履歴等を電子的に記録

約12%

機器・センサー等を用いて取得・分析

約3%

データ分析を活用した営農サービス・サポートを利用

約4%

となります。

私が今回の統計で最も注目したのは、「約40%」よりも「約3%」の方です。

スマートフォンで天気や市況を見るところまで含めれば、データはかなり農業現場に浸透している。

しかし、

「自分の農場で発生しているデータを取得する」

「それを蓄積する」

「分析する」

「次の栽培や経営判断に使う」

というところまで進んでいる農業経営体は、まだ決して多くありません。

これはスマート農業の現在地を考えるうえで、非常に重要な数字ではないでしょうか。


スマート農業の普及を「導入率」だけで評価してはいけない

私はIT企業で農業向けシステムや作業記録アプリ、データ活用サービスの企画・開発に関わり、その後、農林水産省でスマート農業の政策や普及にも携わってきました。

また現在も、自治体や農業関係者とスマート農業や農業DXについて議論する機会があります。

そうした中で感じるのは、

「導入したこと」と「使えていること」は全く別の話だ

ということです。

例えば圃場にセンサーを設置すれば、温度や湿度などのデータは蓄積されます。

しかし、それだけでは経営改善にはなりません。

必要なのは、

データを見る↓意味を理解する↓他の情報と比較する↓判断する↓作業を変える↓その結果を振り返る

というサイクルです。

私はこれを、単なる「データ収集」ではなく、データを経営に実装することだと考えています。


私なら「データ活用成熟度」で地域農業を見る

今回の統計を行政施策に使う場合、私は単純な「データ活用率」だけではなく、地域のデータ活用を段階的に見ることをおすすめします。

例えば、次のような整理です。

第1段階 データを見る

天気予報、市況、病害虫情報などの外部情報を経営判断に利用する段階です。

ここはすでに比較的多くの農業者が実践しています。

第2段階 データを記録する

作業履歴、農薬・肥料使用量、収量、労働時間、販売情報などを電子的に記録します。

この段階になると、単なる情報収集から、自らの経営を「見える化」する方向に変わります。

第3段階 データを取得・分析する

センサー、農業機械、環境制御装置などからデータを取得し、分析する段階です。

2025年センサスを見る限り、全国的にはまだここまで到達している経営体は限定的です。

第4段階 データを意思決定につなげる

ここから先は農林業センサスそのものの分類ではなく、私が実務上重要だと考える段階です。

データ分析の結果を、

  • 播種や収穫時期

  • 施肥

  • 防除

  • 灌水

  • 作業配置

  • 労務管理

  • 原価管理

  • 販売戦略

などの意思決定に反映します。

第5段階 継続的な経営改善につなげる

さらに、

「前年より良くなったのか」

「投入コストが下がったのか」

「収量・品質がどう変わったのか」

「労働時間が減ったのか」

と振り返り、次年度の経営計画につなげます。

私が考えるスマート農業の最終目的は、ここです。

機械を入れることでも、データを集めることでもありません。


農業経営の意思決定をより良くすること。


これが重要です。


2020年と2025年を単純比較すると危険

今回の統計を見る際に、もう一つ注意したい点があります。

2020年農林業センサスにも「データを活用した農業」という調査項目があります。

そのため、

「2020年と2025年でデータ活用率がどの程度増えたのか」

を比較したくなります。

しかし、ここは慎重に扱わなければなりません。

2020年と2025年では、質問内容や回答方法が変更されています。

2025年調査では、具体的なデータ活用方法を複数回答する方式になっています。

したがって、2020年と2025年の割合を並べて、

「5年間で○倍になった」

と断定することは適切ではありません。

統計は数字が出ると比較したくなりますが、定義が違えば同じ物差しではありません。

スマート農業の普及状況を分析する自治体担当者には、特に注意していただきたいポイントです。


都道府県によってデータ活用率には大きな差がある

今回の第2総括編では、全国だけでなく都道府県別の数値も公表されています。

第2総括編そのものは2026年8月7日に公開されています。

都道府県別に見ると、データ活用率には大きな違いがあります。

例えば北海道は、全国平均を大きく上回る水準となっています。

ただし、この数字をそのまま、

「北海道はスマート農業先進地域」

「○○県は遅れている」

とランキング化するのは適切ではないと考えています。

地域ごとに、

  • 経営規模

  • 農業法人の割合

  • 作目

  • 圃場条件

  • 気象条件

  • 労働力

  • JAや普及指導機関の支援体制

  • 農業支援サービスの有無

などが異なるからです。

例えば大規模土地利用型農業と、小規模な都市近郊農業では、必要なデータ活用の姿そのものが違います。

重要なのは、


全国ランキングで何位なのかではなく、その地域の農業構造に対して必要なデータ活用ができているか


を見ることです。


自治体は「スマート農機導入台数」から一歩進んだKPIを

ここからは自治体の農政・スマート農業担当者に特にお伝えしたいことです。

これまでのスマート農業施策では、

「ドローンを何台導入した」

「スマート農機を何経営体に導入した」

「センサーを何か所設置した」

といったアウトプット指標が使われることがあります。

もちろん導入数を把握することには意味があります。

しかし、本当に地域農業のDXを進めるのであれば、その先を見る必要があります。

例えば、

  • データを継続的に記録している農業者は何%か

  • データを分析できる農業者・支援者は何人いるか

  • データをもとに経営改善を行っているか

  • 普及指導員やJA職員がデータを使った支援をできているか

  • 複数システムのデータが分断されていないか

  • 導入したシステムが3年後も使われているか

といった指標です。

つまり政策も、


「何を導入したか」から「どこまで活用されたか」へ


評価軸を変えていく必要があります。


次に必要なのは「機械」だけではなく「人材」

今回の統計から私がもう一つ感じるのは、人材育成の重要性です。

データ活用には、技術だけでは解決できない部分があります。

例えば、

「どの数字を見ればよいのか分からない」

「データはあるが分析方法が分からない」

「分析結果をどの作業に反映すればよいか分からない」

「農業者にどう説明すればよいか分からない」

といった問題です。

ここには、

  • 農業

  • 経営

  • IT

  • データ

  • 現場業務

を横断して考えられる人材が必要です。

そのため、自治体やJAがスマート農業を推進する際には、補助事業による機器導入と同じくらい、


農業者、普及指導員、JA職員、自治体職員などのデータ活用能力を高めること


が重要だと考えています。


データを使わない農業者を「遅れている」と考えてはいけない

一方で注意したいこともあります。

データ活用率が低いからといって、その農業者の経営が遅れているとは限りません。

経営規模、品目、販売方法、地域条件などによっては、高度なデータ分析を行う必要性が低い場合もあります。

また、データ分析に必要な費用や時間に対して十分な効果が得られなければ、導入しないという判断も合理的です。

重要なのは、


「スマート農業を導入すること」を目的にしないこと。


解決すべき経営課題があり、その解決手段としてデータや技術が有効なのであれば使う。

そうでなければ、使わない。

この順番を忘れてはいけません。


データ活用率と農業経営の成果は、まだ別の問題

もう一つ明確にしておきたいのが、今回の統計だけから、

「データを活用すると農業所得が上がる」

「データ活用率が高い地域ほど農業が強い」

と結論づけることはできないという点です。

今回確認できるのは、


「データをどのように活用している農業経営体がどれくらいいるか」


です。

収益性、生産性、所得、労働時間などとの因果関係は別途検証する必要があります。

この点は、今後の統計や研究成果と組み合わせて分析していきたいところです。


2026年10月、市町村別データでさらに面白くなる

今回公表された第2総括編は、全国・都道府県レベルの状況を把握するうえで非常に有用です。

一方、地域農業政策の立場から見ると、さらに重要なのは市町村別のデータです。

今後、市町村別や経営規模別など、より詳細な2025年農林業センサスの結果が順次公表されます。

ここまで出てくると、

「自分の市町村は全国平均と比べてどうなのか」

「県平均との違いは何か」

「大規模経営体と小規模経営体で違いはあるのか」

「地域の主要品目によって違うのか」

といった分析が可能になります。

これは自治体のスマート農業政策を考えるうえで、非常に有効な基礎資料になるはずです。

市町村別統計が公表された段階で、改めて地域別の分析も行ってみたいと思います。


スマート農業の普及をどう測るべきか

今回の2025年農林業センサスを見て、改めて感じたことがあります。

スマート農業の普及を、

「ロボット農機が何台売れたか」

「ドローンが何台導入されたか」

「センサーを何経営体が使っているか」

だけで評価する時代から、そろそろ次に進む必要があります。

見るべきなのは、


データが農業経営の中でどこまで使われているか


です。

データを見る。

記録する。

取得する。

分析する。

判断する。

行動する。

振り返る。

そして経営を改善する。

ここまでつながって初めて、スマート農業や農業DXが経営の中で機能していると言えるのではないでしょうか。

2025年農林業センサスで示された「約4割」という数字は、スマート農業がかなり広がってきたことを示す一つの材料です。

しかし同時に、「分析」まで踏み込んでいる経営体がまだ限定的であることも見えてきます。

私は今回の統計を、


「スマート農業が普及したかどうかを判断する数字」ではなく、「これから何を普及させるべきかを考える数字」


として読むべきだと考えています。

次の5年間に求められるのは、単にスマート農業技術の導入を増やすことではありません。

データを経営に活かせる農業者。

それを支援できるJAや普及指導機関。

地域全体の状況を把握し、施策を設計できる自治体。

こうした「使える人」と「使える仕組み」を増やすことが、日本のスマート農業を次の段階へ進める鍵になるのではないでしょうか。


参考資料

・農林水産省「2025年農林業センサス 第2総括編(農林業経営体調査)」

・e-Stat「2025年農林業センサス 確報 第2総括編」

・2025年農林業センサス 農林業経営体調査票

※本記事における「見る→記録→分析→判断→改善」等の段階整理は、農林水産省による公式な成熟度分類ではなく、公開統計を基に筆者がスマート農業・農業DXの実務上の観点から整理したものです。



 
 
 

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