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米不足は“予兆”に過ぎない農業構造の変化と食料安定供給に向けた今後の展望

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はじめに:米不足が示す構造的課題

2024年度に顕在化した米の供給不足。その背景には、天候不順や在庫調整の失敗といった短期的要因のみならず、農業者の急速な減少・高齢化という構造的リスクが横たわっています。

今後、このような事態は米に限らず、他の農産物にも波及することが予想され、日本の食料安定供給体制そのものが問われる時代が来ています。

なぜ「米不足」は起きたのか──表層と深層

主な短期要因:

  • 異常気象による収量減

  • 在庫圧縮に伴う反動

  • 買い控えと価格高騰の悪循環

だが本質的な問題は、担い手の減少に伴う生産能力の低下です。この課題を放置すれば、米のみならず葉物野菜、果樹、麦類など多くの国産農産物で供給不安が生じる可能性があります。

農業人口の減少がもたらす将来像

  • 農業就業者数は30年で約3分の1に減少

  • 平均年齢は68.4歳(2024年時点)

  • 新規就農者の定着率は依然として低水準

このままでは国内農業は持続可能性の喪失に直面します。とりわけ中山間地・地域資源型農業では、技術・ノウハウの断絶、生産放棄地の増加が顕著になると予測されます。

解決の方向性:スマート農業による構造転換

持続可能かつ効率的な農業への移行には、スマート農業技術の社会実装が鍵を握ります。以下、現状の課題に対応する6つの方向性を提示します。

① 生産性と品質の向上

  • IoTやAIを活用した栽培管理の最適化

  • 自動水門やドローン等による作業時間の短縮と精度向上

  • 病害虫予測・自動診断によるリスク管理の高度化

② 労働力不足の補完と就農促進

  • ロボティクスによる作業の自動化・省力化

  • デジタル技術に親和性の高い若年層の呼び込み

  • 就農希望者に対する教育訓練とデジタル支援

③ 技術の継承と標準化

  • 熟練農業者の技術をデータ化・マニュアル化し次世代に伝承

  • 法人経営体を中心とした生産手法の標準化・効率化

④ 流通と需給調整の高度化

  • 生産・流通・消費データをつなぐ情報基盤の整備(例:WAGRI、ukabis)

  • 需要予測に基づく生産調整とフードロス削減

  • トレーサビリティ確保による信頼性向上

⑤ 経営安定と収益性の強化

  • データドリブン経営(収支可視化・収益予測・リスク分散)

  • 高付加価値品目・契約栽培による価格変動耐性の確保

⑥ 実装インフラと制度支援の拡充

  • 通信インフラ(5G/LPWA)、圃場整備(区画化・均平化)の推進

  • 補助金・リース制度による初期投資の軽減

  • 公共的データプラットフォームとの連携強化(例:WAGRI)

終わりに:分水嶺に立つ日本の農業

米不足は単なる“物不足”ではなく、食料安全保障と農業構造改革の必要性を突きつける警鐘です。今後、農業従事者の減少が不可避な中で、スマート農業を中核とした「省人・高効率型農業」への転換が求められています。

行政・民間・地域が連携し、農業の生産性向上・担い手確保・食料安定供給という社会的課題にどう挑むか。米不足は、その議論を始めるうえでの象徴的な事例と言えるでしょう。



 
 
 

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