新規事業開発の現場では何が起きているのか
- Tomoyuki Watanabe
- 1 日前
- 読了時間: 5分

― 現場の摩擦と、前に進めるための解き方 ―
新規事業という言葉には、どこか華やかな響きがあります。しかし実際の現場で起きているのは、アイデアやビジネスモデルの議論よりも、もっと泥くさい問題です。社内の温度差、既存事業との摩擦、説明責任の重さ、失敗への恐れ、そして「本当にやるのか」という覚悟の問題。新規事業の現場は、実はそうした現実との格闘の連続です。
特に地域企業や中堅・中小企業、あるいは長い歴史を持つ企業にとって、新規事業は単なる売上づくりではありません。むしろ「次の時代に会社を残すための挑戦」という意味合いを持つことが多いのです。では、新規事業開発の現場では実際に何が起きているのか。そして、それをどう解いていくのがよいのでしょうか。
総論賛成、各論抵抗が起きる
新規事業の必要性そのものに反対する人は、実はそれほど多くありません。「将来のためには必要だ」「今の事業だけでは厳しい」「新しい柱を作らなければならない」。こうした総論には、多くの人が同意します。
ところが、いざ具体的に動かそうとすると止まります。理由は単純で、総論賛成・各論抵抗が起きるからです。
現場では、次のような声がよく聞かれます。
今の仕事で手一杯で、新しいことまで手が回らない
既存事業のメンバーから見ると、新規事業だけが優遇されているように見える
何をもって成功・失敗とするのかが分からない
お客様や取引先にどう見られるかが気になる
役員や上層部への説明負担が重い
つまり、新規事業の現場で最初に起きるのは、アイデア不足ではなく組織の摩擦です。
最大のボトルネックは能力より「空気」
新規事業が進まない理由として、人材不足や資金不足がよく挙げられます。もちろんそれも現実です。しかし現場で多く見られるのは、それ以上に心理的・文化的な壁です。
たとえば経営者や責任者自身が、
社員にどう思われるか
既存事業のメンバーに反発されないか
失敗したら責任をどう取るのか
といったことを気にして、アクセルを踏み切れないケースは少なくありません。
一方で、新規事業が前に進んでいる企業には共通点があります。それは、どこかの時点で「これは自分の仕事だ」と腹をくくる瞬間があることです。特に中堅・中小企業では、新規事業は自然発生的に育つものではありません。経営者や推進責任者が旗を振り続けることで、ようやく組織が動き始めます。
既存事業と同じ管理ではうまくいかない
もう一つの典型的な問題は、新規事業を既存事業と同じ管理の仕方で扱ってしまうことです。
既存事業は売上や利益、効率といった指標で管理できます。しかし新規事業は不確実性が大きく、予定通りに進まないのが普通です。にもかかわらず、既存事業と同じように
いつ黒字化するのか
何件契約を取ったのか
いくら回収できたのか
といった数字だけで評価してしまうと、現場は一気に内向きになります。報告のための報告が増え、挑戦よりも失敗回避が優先されてしまうからです。
新規事業で重要なのは、売上だけでなく、仮説検証の進展や顧客接点の増加、協力者の広がりなどを見ることです。つまり、不確実性を前提とした評価の仕組みが必要になります。
自前主義の限界
新規事業の現場でもう一つよく見られるのが、自前主義です。できるだけ自社の人材とリソースだけで進めようとする姿勢は、既存事業では強みになることもあります。しかし新規事業では、それが足かせになることが多いのです。
なぜなら、新規事業は本業とは異なる知見やネットワークが必要になるからです。既存事業で成功してきた企業ほど、その成功体験が逆に視野を狭くすることがあります。
実際には、行政や金融機関、大学、専門家、他企業など外部との連携が突破口になるケースは少なくありません。外部の視点が入ることで、自社では当たり前だったことが価値として再認識されることもあります。
自社の強みは意外と見えていない
新規事業の議論では、「何をやるか」という話から入ることが多いのですが、本来その前に必要なのは「自社の強みは何か」を再定義することです。
長く続いてきた企業ほど、強みが当たり前になりすぎていて、社内では言語化されていないことが多いものです。なぜ顧客が選び続けているのか、何が他社と違うのか、どの技術や信頼が価値なのか。こうした問いは、社内だけでは見えにくいものです。
そのため、顧客や取引先、外部人材などの視点を入れて言語化していくプロセスが重要になります。新規事業とは、ゼロから何かを生み出すだけでなく、すでに持っている価値を別の形で見つけ直す作業でもあります。
新規事業を前に進めるためのポイント
こうした現場の状況を踏まえると、新規事業を前に進めるためのポイントはいくつか見えてきます。
第一に、経営者や責任者が旗を明確にすることです。やるのかやらないのか、誰が責任を持つのかを曖昧にしないことが重要です。
第二に、成果の見方を変えることです。売上だけでなく、仮説検証や顧客接点、社内外の仲間づくりといったプロセスも評価する必要があります。
第三に、外部とつながることです。行政、金融機関、大学、専門家など外部の知見を取り入れることで、事業だけでなく社内の空気も変わります。
第四に、小さな成功体験を作ることです。最初から大きな成果を狙うのではなく、小さな実績を積み重ねることで組織の理解が広がります。
新規事業は「未来の売上」以上の意味を持つ
新規事業というと、新しい売上を作る活動として語られがちです。しかし実際には、それ以上の意味があります。
新規事業に取り組むプロセスの中で、企業は自分たちの強みを見直し、組織の意思決定の仕組みを変え、外部との関係を広げていきます。言い換えれば、新規事業とは未来の売上を作るだけでなく、会社そのものを進化させる活動でもあるのです。
だからこそ、新規事業の現場では摩擦が起きます。そして、その摩擦を乗り越える過程こそが、企業の次の成長につながっていくのだと思います。







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