スマート農業は「ロボット」ではなく「経営戦略」である── 山梨県立農林大学校 講義レポートから見えた、若き農業者たちの“本質的な気づき”
- Tomoyuki Watanabe
- 11 分前
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先日、山梨県立農林大学校にて「有機農業及び先端技術特別講座(ICT研修)」の講師を務めました。
講義後、養成科1年の学生28名全員から提出された研修レポートを拝見し、強い手応えを感じました。そこに書かれていたのは、「新しい技術はすごい」という表層的な感想ではありません。農業を“経営”としてどう成立させ、どう守り、どう次世代につなぐかという、本質的な問いでした。
本稿では、学生たちのレポートから浮かび上がった「次世代農業者が捉えるスマート農業のリアル」を、専門家の視点で整理します。
1. スマート農業は「ハイテク」ではなく「課題解決の手段」
講義前、多くの学生がスマート農業に対して抱いていたのは、
ロボット・AI・ドローンといった最先端技術
大規模法人向けの高コストな仕組み
自分たちにはまだ早い世界
というイメージでした。
しかし講義後のレポートでは、その認識が明確に変化しています。
「ICTは目的ではなく、課題解決のための手段」
「経営のリスクを抑え、収益を最大化するための考え方」
「自分たちの農業を説明できるようにする道具」
学生たちは、スマート農業を**“自動化の話”ではなく、“経営判断の質を高める仕組み”**として再定義しました。
これは極めて重要な転換です。技術導入ありきではなく、「どう経営に活かすか」を起点に思考できている。ここに、次世代農業の可能性を感じます。
2. キーワードは「情報武装」──経営と自分を守るために
今回のレポートで、特に印象的だった概念が**「情報武装」**です。
学生たちは、なぜ農業にデータが必要なのかを、単なる効率化ではなくリスク管理の視点で捉えていました。
「問題が起きたとき、記録がなければ農家が全責任を負う」
「安価な輸入農産物と戦うには、品質をデータで証明する必要がある」
「情報を持つことが、生産者を守る盾になる」
農業は自然条件に左右される産業ですが、トラブル時に作業履歴・管理記録・環境データがあるかどうかで、生産者の立場は大きく変わります。
学生たちは、GAPやトレーサビリティを「制度」ではなく「自分を守る仕組み」として理解していました。
3. 「勘と経験」を“知的資産”として残すという発想
「農業技術の知的財産化」というテーマに対する反応も、非常に成熟していました。
「匠の技術は、属人化すると継承できない」
「感覚で行っていた管理を、データで再現できるようにする」
「データは次世代農業者にとっての教科書になる」
熟練農家の勘と経験は、極めて価値の高い資産です。しかし、それが個人の中に閉じてしまえば、引退や事故とともに失われるリスクを孕みます。
学生たちは、「経験 × データ」による品質の再現性と安定性こそが、スマート農業の核心だと捉えていました。
彼らが描くスマートファーマー像は明確です。
「機械を使える人」ではなく、データと経験を照らし合わせ、収益と品質の最適解を判断できる人」
4. 描かれていたのは「現実的な最初の一歩」
将来、自分の農業でICTをどう活用したいか。学生たちの回答は、驚くほど地に足のついたものでした。
作業記録のデジタル化手書きや写真管理から脱却し、翌年の改善につなげたい
環境モニタリングハウスや果樹園での温度・環境管理を遠隔で把握
労働負荷の軽減アシストスーツやドローンによる省力化
いきなりAIや完全自動化を目指すのではない。「明日からできる一歩」としてICTを捉えている点に、強い現実感があります。
結論:技術に使われるな。技術を“経営に使え”
今回の講義と28名分のレポートを通じて、確信したことがあります。
スマート農業の本質は、技術ではない。それを使って“考える力”にこそある。
学生たちは、「楽をするため」だけにICTを使おうとしていません。より良いものを作り、正当な対価を得て、農業を持続可能な産業として次世代につなぐために、技術が必要だと理解していました。
山梨県立農林大学校の学生たちが、データと情熱を武器にした真のスマートファーマーとして現場に立つ日を、今から楽しみにしています。






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