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なぜクマ被害が過去最多に?―複合要因を解剖し「共存」を現実解にする

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2025年、全国でクマの出没・被害がかつてないペースで報告されています。10月末の時点で死亡事故は過去最多の9人。人身被害の件数も、統計開始以来の最悪水準。「山の話」ではなく、いまや私たちの生活圏のすぐそばで起きている現実です。

1. 何が起きているのか ― “人里”で増えるクマの出没

これまで山奥に限られていたはずのクマ被害が、近年では住宅地や農地、商業施設など、日常の延長線上で発生しています。農林水産省の統計によれば、令和5年度のクマによる農作物被害額は約7億円。リンゴ、柿、栗、トウモロコシ、そして養蜂場――いずれも秋の味覚が被害の中心です。

特に東北地方や北陸では、秋(9〜11月)に被害が集中。冬眠前の食料不足と、生活圏への進出が重なり、危険が高まっています。

2. なぜ今クマが増えているのか ― 四つの複合要因

単一の原因ではなく、複数の要素が重なり合う「複合危機」です。

(1)生息環境の変化

中山間地域の過疎化・高齢化が進み、耕作放棄地や放置果樹が増加。里山の“人の手”が入らなくなった結果、クマが隠れやすく、餌を得やすい環境が整ってしまいました。

(2)山の食糧不足

どんぐり類(ブナ・ミズナラ)の凶作年には、山の中で餌を確保できず、人里への出没が急増します。令和5年度も広域で凶作が確認されました。

(3)人慣れと行動の変化

ゴミや農作物の味を覚えた“人慣れ個体”が増加。特に若いオスグマは新たな縄張りを求めて十数キロ単位で移動し、想定外の地域に出没します。

(4)ハンターの減少

狩猟免許保持者は1975年の49万人から、2020年には約9万人へ。約80%減少した結果、個体数調整の担い手が不足し、管理体制が追いつかなくなっています。

3. 対策の最前線 ― 制度・技術・地域の三層で考える

(1)国の動き:クマを「指定管理鳥獣」に

2024年4月、クマが正式に指定管理鳥獣に追加されました。これにより、科学的データに基づく計画的・広域的な管理が可能になり、環境省の「クマ類総合対策事業」では、調査・捕獲・人材育成を一体的に支援しています。

(2)ゾーニング管理の導入

専門家が提唱するゾーニング管理では、地域を次の4層に分けます。

  • コア生息地:保護を重視

  • 干渉地帯:必要に応じ捕獲・調整

  • 防除地域:出没防止を強化

  • 排除地域:市街地など、原則クマを出さない

「やみくもに減らす」ではなく、地域単位での生態系バランスを前提に共存を設計する考え方です。

(3)テクノロジー活用「ハンテック(狩猟DX)」

罠にクマがかかるとスマホに通知、捕獲情報をクラウドで共有、ジビエ流通をデジタル管理。狩猟の世界でもDX化が進み、「ガバメントハンター(公的ハンター)」を雇用する自治体も増えています。

4. 住民ができること ― “クマを寄せつけない環境づくり”

● 誘因物の除去

落果した果実、生ごみ、ペットフード、肥料などは屋外に放置しない。ゴミ出しは収集日当日、密閉容器で。不要な果樹は伐採も検討。

● 隠れ場所をなくす

家の周りや農地のヤブを刈り払い、見通しを確保。特に林縁部5〜10mを短く保つことが推奨されています。

● 電気柵の設置とメンテナンス

地上20・40・60cmの3段構成で6,000V以上を維持。草が触れて電圧が下がらないよう、定期的な点検を。

5. 山での行動と遭遇時の鉄則

  • クマ鈴・ラジオ・ホイッスルなどで存在を知らせる

  • 明け方・夕方の行動は避ける

  • 食べ物やゴミは密閉して持ち帰る

  • 万が一出会ったら「走らない」「目を離さず後ずさる」「防御姿勢」

  • 子グマを見たら即離れる(母グマが近くにいる)

撃退スプレーは最後の手段。腰につけてすぐ使える状態で携行し、風向きと使用期限に注意を。

6. 地域での成功事例 ― 札幌・円山地区の取り組み

札幌市中央区の円山地区では、住民が主体となり「ヒグマ学習会」「独自LINE通知」「住民参加型ハザードマップ」を展開。この“学び→共有→行動”のサイクルが功を奏し、出没時にも冷静な対応が取れる地域体制が生まれました。

「まさかうちの町に」ではなく「ついに出たね」と受け止める意識の転換。この“自分ごと化”こそ、共存への第一歩です。

7. 私たちが問われていること ― 「誰が里山を守るのか」

専門家の指摘にある通り、高齢化と担い手不足は避けて通れません。草刈り、放置果樹の伐採、電気柵の維持。これらを支える仕組みを、地域・行政・企業・テクノロジーがどう分担していくかが鍵です。

「クマとの共存」は、単なる環境問題ではなく、地域社会の再設計の課題。自然と人の境界線を、私たちはどう引き直すのか――いま、その問いが突きつけられています。


 
 
 

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