【異業種×スマート農業】参入企業が必ず知るべき“成功の方程式”とは?
- Tomoyuki Watanabe
- 11月14日
- 読了時間: 8分

「うちの技術、絶対に農業に役立つはずなのに、なぜか農家さんには刺さらない…」
スマート農業に参入した異業種企業の方から、私はこれを何度も聞いてきました。素晴らしい技術があるのに手応えがない。問い合わせはそこそこあるのに、導入までなかなか進まない。その裏側には、技術力だけでは超えられない“深い溝” が横たわっています。
1. なぜ今スマート農業がこんなに注目されているのか
まず、大前提となる日本の現状から。
2020年時点で、農業に従事している人の約7割(69.6%)が65歳以上です。この数字が意味しているのは、
一人あたりの作業負担が増え続けること
ベテラン農家の「勘」「経験」「さじ加減」といった暗黙知が、引退とともに急速に失われつつあること
という、かなり切実な構造的問題です。
この課題を解決する手段として期待されているのが「スマート農業」です。ドローンによる農薬散布、AIによる自動収穫、無人トラクター、環境センサー…農業と先端技術を掛け合わせることで、
省力化(労働力不足の補完)
技術継承(暗黙知の見える化・標準化)
を同時に実現しようという流れです。
実際、市場は急成長しており、国内スマート農業市場は2021年の約250億円から、2028年には600億円規模へと拡大する予測も出ています。
一見すると「めちゃくちゃ大きなビジネスチャンス」です。ところが――。
2. 技術と現場の“ギャップ”という深い溝
市場は伸びているのに、現場では何が起きているのか。
実は、データを経営に活用できている農家はまだ全体の23.3%程度に過ぎません。つまり、約4分の3の農家は、スマート農業のポテンシャルをまだ十分快に享受できていない状態です。
技術・市場側から見れば「伸びる市場」
現場・農家側から見れば「まだよくわからないもの」
このギャップこそが、異業種企業にとっての“最大のチャンス”であると同時に、“最大の落とし穴”です。
3. 0→1と1→10、対照的な2つの成功事例
ここからは、実際にこの溝を乗り越えた2つの事例を紹介します。
3-1. 大手SIerがゼロから事業を生み出した「0→1」のケース
大手電機メーカー傘下のSIerが、「農業で新規事業をやれ」と経営層から指示されました。しかし、最初は何から始めていいか分からない。そこで彼らが取った行動は、「とりあえず農地にセンサーを置いてみる」 という、IT企業らしいアプローチでした。
気温・湿度・土壌水分などのデータを集めれば、何かしら“すごい示唆”が得られると考えたのです。
しかし、農家の反応は一言。
「で? だから何?」
典型的な「技術ありきの失敗パターン」です。
ここで発想を転換し、「機械が取る環境データ」+「農家自身がつける農作業記録」という、二つのデータを組み合わせる設計に変えました。
いつ、どんな天候・環境条件だったのか(客観データ)
そのとき農家が何を判断し、どんな作業をしたのか(主観データ)
この両方が揃うことで、初めてベテランの「勘」「経験」がデータとして浮かび上がってきます。
最終的には、
栽培リスクを減らす
その地域ならではのブランド野菜を開発する
地域全体の農業を3か年で底上げする
という“センサー販売”を超えた、地域活性化ストーリーにまで昇華させ、見事に経営層の承認を勝ち取りました。
3-2. 静岡の機械メーカーが売り方を変えた「1→10」のケース
もう一つは、静岡の機械メーカーの事例です。ここは、もともと高性能なセンサー製品を持っていましたが、飛び込み営業をしても全く売れない状況が続いていました。
理由はシンプルで、「農家の心理」と「リスク感覚」を理解していなかったからです。
農家にとって新しい機械を導入することは、
単なるコストではなく「その年の収入がゼロになるかもしれない賭け」
でもあります。だから、未知の企業から勧められた製品に、いきなり飛びつくことはほぼありません。
農家が一番信頼しているのは、スペック表ではなく、
地域で尊敬されている「あの人が使っているかどうか」
昔から付き合いのあるJAや農機具店が勧めているかどうか
という“人”と“関係性”です。
そこでこの企業は戦略を変えました。
地域で最も影響力のある大規模農家(ベルファーム社)に導入してもらう
その農家から「作業がここまで楽になった」という“本気のお墨付き”を得る
その上で、農家が日頃から付き合っているJA・種苗会社(トヨタネなど)に代理店になってもらう
自分たちが直接売り込むのではなく、既に信頼されているネットワークの“中に入れてもらう”設計に変えたことで、一気に販売が伸びていきました。
4. 共通する哲学:全国制覇より「足元の1地域」、高齢者より「継承世代」
この2つの成功事例には、共通する哲学があります。それを3ステップのプレイブックとして整理すると、次のようになります。
ステップ1:ビジネスプランは「全国」より「足元の地域」から
新規事業と聞くと、つい「全国展開」「スケール」を夢見てしまいがちです。 しかし農業は、気候・土壌・水・販路などが地域ごとに全く違う“地場産業”です。
だからこそ、
まずは自社が入りやすい、1つの地域に絞る
作物・販路・プレーヤーまで具体的に描いたプランにする
その地域での成功モデルをテンプレート化して、次の地域へ横展開する
という順番が有効です。
ターゲット農家も、「高齢のベテラン」を狙うよりも、
親から農地を継いだばかりの30〜40代
事業継承を真剣に考え始めている40〜50代
といった“継承世代”にフォーカスした方が、ニーズの解像度は圧倒的に高くなります。
彼らは、
親世代の暗黙知を何とか残したい
ITにも抵抗が少なく、新技術への関心も高い
という特徴を持っているからです。
ステップ2:POC(実証実験)は「量」より「質」
次に大事なのがPOCです。ここでも、よくある罠は「とにかくデータをたくさん集めればいいだろう」という発想です。
重要なのは量ではなく質。
センサーで取れる環境データだけでは不十分
必ず「農作業記録」「判断の理由」「作物の状態」など、人間側の情報をセットで集める
同じ作物・同じ栽培方法で、最低3つの事例(3シーズン or 3農家分)を揃える
この設計ができていないと、後からいくらAIで分析しても「で、結局どう判断すればいいの?」という状態になります。
富士通の事例でも、当初作ったシステムは機能が多すぎて農家にとっては“オーバースペック”でした。POCを通じて「本当に使われる機能」だけに絞り、価格も下げた結果、むしろヒット商品になったのです。
完璧な100点の製品ではなく、農家にとって“ちょうど良い80点”を見つける。それがPOCのゴールです。
ステップ3:販路開拓は「名前」「声」「チャンネル」の設計勝負
最後のステップが販路です。ここでも「良いものを作ったから、あとは営業部に頑張ってもらおう」ではうまくいきません。
ポイントは3つあります。
名前(ネーミング)例に出てきた「畑らく日記」という製品名は、一発で“何をしてくれそうか”が伝わります。逆に「高機能土壌環境モニタリングシステム Ver2.0」では誰も振り向きません。
声(導入農家のストーリー)Webサイトや資料には、「導入してどう変わったか」という農家の生の声を必ず載せるべきです。スペック表よりも、「これで作業が○時間減りました」「○○の不安がなくなりました」という体験談が刺さります。
チャンネル(既存ネットワークの活用)JA、農機具店、種苗メーカーなど、農家が既に信頼しているプレーヤーを巻き込みます。さらに、最近は音声SNS「Clubhouse」のような場で農家コミュニティが活発に情報交換しているため、そうした場に飛び込んで“耳が空いている時間”に情報を届ける工夫も有効です。
5. 農家というビジネスパートナーの「3つの特性」
最後に、農家を「顧客」ではなくビジネスパートナーとして見るときに、絶対に押さえておきたい3つの特性を整理します。
収益モデルは作物と販路によって全く違う例えば、トマトは糖度を少し上げても価格はほとんど変わりませんが、メロンは糖度が1度上がるだけで一気に単価が跳ね上がります。「品質を上げれば儲かる」と単純化せず、作物×販路ごとの構造理解が必要です。
地域のリーダー的農家の判断を重視する「あの〇〇さんが使っているなら間違いないだろう」という感覚が非常に強い世界です。だからこそ、“キーマン農家”との関係構築は最優先の投資になります。
昔からの付き合いがある業者を大切にするJA、農機具店、資材屋さんなど、長年の信頼関係をベースにビジネスが回っています。いきなり間に割って入るのではなく、そのネットワークの中に入れてもらう設計が求められます。
この3つを無視して、自社の論理や技術を一方的に押し付けても、まずうまくいきません。
6. あなたの技術を「1戸に売って終わり」にしないために
最後に、この記事を読んでくださっているあなたに問いかけたいことがあります。
あなたの会社の技術で、単に1つの農家に製品を売って終わりたいですか?それとも、その技術をテコにして、地域全体の農業を次のステージに引き上げたいですか?
スマート農業の本当のポテンシャルは、単に作業を省力化したり、収量を増やしたりすることだけではありません。
ベテランの暗黙知をデータとして“再現可能な形”にする
それを地域全体で共有し、新しいブランド作物や栽培モデルを生み出す
こうした取り組みの先に、「令和の夕張メロン」「令和の魚沼コシヒカリ」が生まれてくるかもしれません。
あなたの技術が、その起爆剤になる可能性は十分にあります。
異業種からスマート農業に挑戦しようとしている方は、ぜひ「技術中心の発想」から一歩引いて、
農家の心理
地域の文脈
収益構造
信頼ネットワーク
といった“人間側の設計”から、もう一度ビジネスプランを見直してみてください。
そこからが、本当の意味でのスマート農業ビジネスのスタートラインだと私は思っています。






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