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経験と勘の農業から、データ駆動型農業へ― スマート農業における環境モニタリングの可能性と課題 ―

はじめに|なぜ今、環境モニタリングが重要なのか

日本の農業は今、大きな転換点にあります。高齢化と担い手不足、気候変動による影響、そして国際競争の激化──。これらの課題に立ち向かう鍵の一つが、「環境モニタリング」に代表されるスマート農業技術の導入です。

とりわけ、圃場や作物の状態をリアルタイムで把握・分析し、データに基づく判断ができる環境モニタリングは、持続可能な農業経営の中核を担う技術として注目を集めています。

現状と進展|現場で進む「見える化」とその限界

現在、多くの農業現場では以下のような環境データが収集されています:

  • 気温・湿度・CO₂濃度

  • 土壌水分・水田水位・水温

  • 作物の生育状況・病害虫の発生傾向

これらは、圃場に設置されたセンサーやドローン、衛星リモートセンシングによって取得され、スマートフォンやクラウド経由で可視化・共有されます。ハウス内の環境制御や水管理システムは、遠隔での操作も可能になっており、省力化とリスク低減に貢献しています。

しかし一方で、現場の情報伝達はいまだFAXや電話に依存している地域も少なくなく、得られたデータが営農に活かされず「宝の持ち腐れ」になっているケースもあります。

環境モニタリングの本質的な利点

環境モニタリングがもたらす価値は、単なるデータの蓄積にとどまりません。

  • 収量や品質の安定化・向上

  • 最適な施肥・防除・灌水計画の策定

  • 病害虫の早期発見と予測防除

  • 作業工程の効率化・省力化

  • 経営データの可視化による価格交渉力の強化

さらに、データは「匠の技」の暗黙知を形式知化し、後継者や新規就農者への技術継承を加速させる役割も果たします。これにより、属人的な営農から脱却し、持続可能かつ再現性の高い農業へとシフトする土台が整います。

現実に立ちはだかる壁と課題

理想と現実の間には、いくつもの障壁が存在します。

  1. データは集まるが「活かしきれていない」問題 分析・実行への落とし込みが不十分で、宝の持ち腐れに。

  2. システムの“縦割り”とデータ連携の不足 種苗・農機・資材メーカーごとに独自仕様があり、相互運用性が低い。

  3. データの“囲い込み”と農業者の不信感 外部企業の都合でデータが活用され、農業者自身が恩恵を受けられない構造。

  4. ITリテラシーとスキルの壁 「見える化」された情報を、どう読み解き、判断につなげるかという課題。

  5. 地域差と汎用化の限界 気候・土壌条件が多様な日本では、全国一律のモデル適用が困難。

今後の展望|データがつなぐ農業の“共創”社会へ

未来に向けては、以下のような展開が期待されます。

  • WAGRIのような農業データ連携基盤の普及 異なるシステムの橋渡し役となり、データの統合活用を可能に。

  • AI・画像解析による病害虫診断や収量予測の高度化

  • 環境負荷を抑える精密施肥・防除技術の発展

  • スマート農業補助金等を活用した導入支援と実証実験の拡充

また、データを最大限に活かすためには、農業者・行政・企業・研究者・教育機関など多様なプレイヤーが「共創」するエコシステムの構築が不可欠です。今後は、アグリデータサイエンティストのような専門人材が農業現場をサポートする体制づくりも求められます。

おわりに|“感覚”から“科学”へ、農業の進化を止めないために

環境モニタリングは、「経験と勘」に頼ってきた農業の常識を根底から変える技術です。データは農業者の右腕となり、意思決定の質を高め、経営の未来を支える羅針盤になります。

農業が“かっこよく稼げて感動がある”産業へと進化するために、今こそ環境モニタリングを「当たり前の営農基盤」として定着させる時期が来ています。


 
 
 

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