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移民か?スマート農業か?― 日本の農業を支える「労働力問題」の本質に迫る ―

【はじめに:消えゆく担い手たち】

みなさん、こんにちは。渡邊智之です。

現在、日本の農業はかつてない人手不足に直面しています。農業従事者の平均年齢は68歳に達し、毎年約10万人が農業を離れているという統計もあります。このままでは、17年後には日本の農業従事者がほぼいなくなるという深刻な見通しもあります。

コロナ禍以前は、技能実習生や特定技能などで来日する外国人労働者が現場を支えていましたが、入国制限の影響でその頼みの綱も細くなり、現場の疲弊が加速しました。

加えて、日本の農家は一人あたりの耕作面積が世界的に見ても小さく、少人数でより広い面積を効率的に管理する体制構築が急務です。

【1. 日本農業の労働力構造:外国人という現実】

日本の農業は長年、「きつい・汚い・危険」の“3K”のイメージと、「儲からない」という経済的な難しさから、若者の参入が進まず、高齢化と担い手不足が常態化しています。

そうした中で、農業経営を成り立たせているのが、外国人労働者です。技能実習生や特定技能の制度を活用し、全国の農業法人や農家の現場では、彼らが不可欠な存在となっています。

しかし同時に、農村地域との摩擦、言語や文化の壁、制度の不透明さ、そして“労働力としての消費”という批判も根強くあります。

【2. 「移民」へのアレルギーと制度的限界】

日本は、移民国家ではないと言われつつも、実態として**「労働移民依存」**が進んでいるのが農業分野です。OECD諸国と比較しても、日本の外国人比率は低いにもかかわらず、外国人労働力への依存度は極めて高いというギャップが生じています。

にもかかわらず、制度は仮の在留を前提としたまま。そして国民感情には、「移民的状況」に対する不安や警戒心が根強く存在します。

この矛盾を乗り越えるには、新たな仕組みの導入と社会的な合意形成が求められます。

【3. スマート農業(DX)という“第三の道”】

その打開策こそが、スマート農業による省力化・無人化・可視化です。

スマート農業とは、IT・IoT・AIなどのデジタル技術を用いて、農作業の効率化・高度化を実現する取り組みです。農林水産省が提唱する「農業DX構想2.0」によって、技術導入、補助金支援、人材育成、インフラ整備などが加速しています。

▼ 技術の代表例:

  • ドローンによる防除・施肥・センシング

  • AIによる病害虫診断・収穫時期予測

  • 自動運転トラクターや収穫ロボット

  • 遠隔環境制御(温湿度・CO2・日射・水分)

  • スマート水管理システム(例:Paditch)

  • アシストスーツによる身体負担の軽減

これらはすでに全国で実用化されつつあり、「人手を削減する」のではなく、“人にしかできない作業に集中できる”農業へ進化させるのです。

【4. 「共に働く」から「共に創る」へのシフト】

スマート農業の本質的な価値は、「技術導入による労働力の代替」ではありません。むしろ、

  • 経験と勘を形式知(データ)化し、

  • 多様な人材でも同じ基準・品質で作業ができるようにすること

にあります。

例えば、営農支援ツール(KSAS、アグリノート等)を活用すれば、新人や外国人でも即戦力化できる農業が実現できます。

さらに、農業とITの橋渡しを担う「スマートアグリエバンジェリスト」や「スマートサポートチーム」の活動が、地域単位での実装支援と普及の担い手となり、孤立しがちな現場の課題解決に大きく貢献しています。

【5. 未来へ:新しい農業像とは】

日本の農業は、もはや「人手不足 vs 移民依存」という単純な選択肢の時代ではありません。第三の道──スマート農業による構造転換によって、日本人・外国人を問わず多様な人材が「共に創る」農業へ進化できます。

そして、農業のイメージもまた「きつい・汚い・危険」から「かっこいい・稼げる・感動がある」へと生まれ変わろうとしています。

【結び:いま、踏み出すとき】

テクノロジーは、労働力不足を埋めるだけでなく、新たな農業経営の可能性を広げる鍵です。スマート農業は単なる手段ではなく、社会の合意形成を促進する仕組みでもあります。

次世代へつなぐ農業の未来を見据えて、いまこそ、「移民かスマート農業か?」という問いに答えるときではないでしょうか。


 
 
 

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