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スマート農業は「冷静に期待」では普及しない現場で見えている“本当の課題”に踏み込もう



◆ 技術はある。でも、なぜ普及しないのか?

スマートトラクター、ドローン、AIによる生育予測――。日本の農業を変える鍵として、スマート農業の技術は日々進歩しています。しかし、「なぜ広がらないのか?」という問いに対し、下記の記事ではこう述べます。 日本のスマート農業はなぜ普及が進まないのか?| MRIオピニオン(2025年3月号) | ナレッジ・コラム | MRI 三菱総合研究所

「スマート農機に対しては“冷静”に期待したほうがよい」「構造改革なしに普及は難しい」

もちろん、このような現実的な指摘には一定の妥当性があります。ただし、農業の現場でDX支援や技術実装を進めてきた立場から見ると、「その論点では不十分だ」と強く感じます。

技術が広がらない背景には、構造改革だけでは解決できない“人・文化・組織・データ”の複合課題が横たわっているのです。

❶ スマート農業を阻むのは「技術」ではなく「文化」

農業の現場では今もなお、「経験と勘」が重視され、マニュアルが存在しないというケースが珍しくありません。法人化した農業組織でさえ、個々人のやり方にこだわりが強く、共通の生産プロセスが確立できていない現状があります。

これはITの導入以前の問題であり、スマート農業を導入できる“組織基盤”が整っていないということです。

異業種のIT企業がスマート農業に参入しても、現場の“属人的ノウハウ”に阻まれて撤退していくケースが相次いでいるのも、このためです。

❷ 数字があいまいな経営に「労務改善」は通用しない

記事では「スマート農機の費用対効果が悪い」との指摘がありました。しかしその前に問題なのは、そもそも人件費が計上されていないことです。

農業経営者の多くは、自らの労働を“無料”と見なし、「人に任せるより自分でやった方が安い」と判断してしまいます。これでは、いくらAIが効率化を示しても、比較対象そのものが存在しないため、導入判断が成立しません。

経営意識の改革とセットでなければ、スマート農業はどんなに進化しても、現場で使われません。

❸ 「データを外に出すのが怖い」という意識の壁

データ共有や農業プラットフォームの整備について、記事ではほとんど触れられていませんが、これは普及の核心的課題です。

現場では、「クラウドに情報を上げるのは怖い」「ノウハウを取られるのでは」という不信感や防衛本能が根強く存在します。さらに、企業や機器ごとにフォーマットや仕様がバラバラで、相互運用性も不十分。結果として、農業のデジタル化は“分断された点”の集まりになっています。

これは技術の問題というよりも、信頼・ガバナンス・教育の設計不足です。

❹ 人材育成なき導入は、失敗する

記事では「経営力のある農業者が必要」との指摘がありましたが、その「育成」への言及が抜け落ちています。

スマート農業には、ITスキル・データ分析力・組織マネジメントが求められます。にもかかわらず、それを育てる教育環境はまだまだ不十分。農業高校でもプログラミングやセンサーデータ分析を扱うカリキュラムは一部に限られています。

育てずに導入しても、使いこなせないのです。

❺ スマート農業の“冷静な期待”が生む、前進しない空気

確かに、スマート農業の普及には慎重な判断が必要です。しかし、「冷静な期待を」と言い続けるだけでは、誰も動きません。農業現場は今、課題を「分かっているが、動けない」というジレンマに陥っています。

私たちが進めるべきは、「現場から変える仕組みづくり」と「人を育てる地道な取り組み」です。そこに投資と支援を集中させることこそ、真のスマート農業普及の道です。

◆ おわりに|スマート農業を“職業として選ばれるもの”に

スマート農業は、ただの自動化技術ではありません。若者が「この仕事をやってみたい」と思える職業に変える力があります。

だからこそ、冷静に構造改革を待つのではなく、人と組織と地域を同時に変える本質的な変革が今、必要です。

 
 
 

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