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『背中を見て学ぶ』から『データで継ぐ』へ― スマートファーマーという次世代農業経営者の肖像 ―



◆ 農業継承の価値観が変わりつつある

「親父のやり方を見て覚えろ」かつて農業現場では、経験と勘を暗黙知として継承するのが常でした。しかし今、農業経営を取り巻く環境は大きく変化しています。

気候変動、人口減少、消費者ニーズの多様化。そして、デジタル技術の進展。

こうした背景のなかで登場しているのが、「背中を見る」のではなく、「データを見る」ことで農業を継承・変革する担い手です。その存在を、私は「スマートファーマー」と呼んでいます。

◆ スマートファーマーとは何者か?

「スマートファーマー」は、単にスマート農業技術を導入した農業者ではありません。

彼らは以下のような要素を併せ持つ、複合的な能力を備えた次世代型農業経営者です。

  • 高度な農業スキル(気象・土壌・作物の知識)

  • 経営者視点(コスト管理・マーケティング・ブランディング)

  • デジタルスキル(データ分析・ICT・クラウド活用)

  • 社会的責任(地域雇用・環境保全・教育貢献)

つまり、スマートファーマーとは、「収益性」「持続可能性」「社会的意義」の3要素を統合的に追求する農業経営者なのです。

◆ スマートファーマーを定義づける7つの要件

スマートファーマーの特性を整理すると、以下の7点に集約されます。

  1. 自然と社会の複合的要請に応える判断力 天候・市況・契約納期などを統合的に把握・管理し、信頼ある事業体を構築。

  2. 高い観察力と即応力 病害虫・栽培異常の兆候を早期発見し、被害を最小化するリスク管理能力。

  3. 技術継承の明文化とマニュアル化 センサー等からのデータを用いて、生産方法を可視化し、再現性のある営農体系を構築。

  4. 収益最大化とリスク回避のためのコスト管理力 日々の作業・経費を定量的に把握し、ミスや不具合にも迅速に対応。

  5. 多様な人材を活かす職場のデザイン力 障がい者や高齢者を含む包摂的な雇用と、テクノロジーを活用した作業設計。

  6. 地域と都市をつなぐ事業構想力 地産地消だけでなく、観光・都市消費者との接点を設けた地域内外流通モデルの構築。

  7. 地球環境と次世代に配慮した農業哲学 持続可能な資源循環型農業の実践を通じ、未来に責任ある経営を行う。

◆ 情報武装としてのスマホとクラウド

スマートファーマーにとって、スマートフォンやクラウドシステムは単なる便利ツールではなく、「農業を構造的に変える武器」です。

  • 作業記録や生育データ、コスト情報をリアルタイムで可視化

  • チーム内でのデータ共有による意思決定の迅速化

  • 異常気象や病害虫に対する早期リカバリー体制の構築

このような「情報武装」は、属人的・アナログだった農業を、透明性と再現性のある知識体系へと変える鍵となります。

◆ スマートファーマーのペルソナ

スマートファーマーという生き方を志向するのは、次のような農業者層です。

  • 親からの農業承継者で、感覚頼みのノウハウに限界を感じている若手世代

  • 後継者や従業員に向けて、明文化された栽培知識を遺したい経営者

  • 異業種から農業へ参入し、短期間で成果を出したいと考える起業家タイプ

共通点は、「農業をより良いものにしたい」という意思と、変化を受け入れる柔軟性と意志の強さです。

◆ 「データで継ぐ」ことの意義

経験と勘で築かれてきた日本の農業は、確かに高い技術力を育んできました。しかし、それが可視化・継承されないままでは、次世代が再現することは困難です。

だからこそ、今、「データで継ぐ」ことが求められています。記録と可視化によって、生産技術は形式知となり、再現性と共有性を持ちます。それは、農業を「産業」として持続可能なものにする第一歩です。

◆ 結びに|農業は“未来型産業”である

農業はもはや「時代遅れな仕事」ではありません。むしろ、テクノロジーと共に進化する“未来型の産業”です。

スマートファーマーは、その変革を体現する存在。農業を「かっこよく、稼げて、感動がある仕事」に変える力を持っています。

次の担い手は、あなたかもしれません。そしてそのとき、見るべきものは「先輩の背中」ではなく、クラウドに残されたデータなのです。

 
 
 

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